魔法使いとその妹と従者(その1)

相変わらず更新が遅くて申し訳ありません。なんか小説の方は調子が良かったり悪かったりでなかなか思う通りにいきません。まあ、イラストも大して変わらないのですが……。やっぱり二刀流では遅くなります。
それはさておき、今回からは予告したように「箱庭世界の巨大少女剣士」のスピンアウト作品をお送りします。少女魔法使い・ヒナを軸にしたお話です。まず今回はヒナをメインということで……。

……
「……」
辺りを見回して、ヒナ・スノウは大きな溜息を漏らした。
初めて使った魔法の発動自体には成功したし、その結果も満足できるものだった。本人がどう思っているのであれ、<万能の魔女>という二つ名に恥じない立派なものだった。
しかし……。
「どうして魔法を使った私まで箱庭の中に取り込まれてしまうのよ……。私は外から成果を確かめるだけだったのに」
唯一、かつ最大の失敗は<箱庭>の魔法を使った本人まで箱庭の内部に取り込まれてしまった点だった。
「見事に巨大化してしまったわね。まったく、そんなつもりじゃなかったのに……」
<箱庭>の内部に再現されたのは、異世界の大都市……トウキョウという名前だったか……の一部だった。図書館の資料などや黒羽を通じて手に入れた情報を元に再現したので、相違点はあるはずだったが、一見すると架空の存在には見えない程の精巧さだった。
その中央に、<万能の魔女>は約50倍サイズに巨大化して立っていた。白と青のワンピース、黒のマントといういつもの姿のままで……。
「ま、仕方ないわね。どこが悪かったのか確かめないと。このままじゃどうにもならないし。……」
ぼやき終えるのと同時に。ヒナは魔法使いとしての顔に戻って短い呪文を唱えた。<箱庭>の外に出て、失敗の原因を突き止めなければならないと思っていたのだが……。
いつも使っている転移の魔法は発動しなかった。
「……。まさか……」
わずかに眉をひそめ、幾つか魔法を試してみる。いずれの魔法もまったく発動しなかった。
「魔法が使えない。この箱庭のせいみたいね。魔法を使えるようにするには……」
結論が出るまで時間はかからなかった。しかし、その先に必要な行動に思い至って、ヒナはさっきより大きな溜息をついた。
いつもの50倍に巨大化した<万能の魔女>ヒナ・スノウは、怪獣となって<箱庭>内の架空の都市を全て破壊しなければならなかったからだった。しかも、自分の手足だけを使って。

そもそもの元凶は、親友であり今の住居……白塔館の主である少女吸血鬼のミアキス・ロッテの「お願い」だった。
異世界に住む友人の吸血鬼・黒羽が使いこなす<箱庭>にすっかり魅せられてからというものの、日夜ヒナに再現を頼み込んできたからである。
「<箱庭>の魔法なんて私も知らないわ」
「だったら作ればいいじゃないの。新しい魔法を生み出す事だって出来るんでしょう?」
ロッテは思っていた以上にしつこかった。黒羽たちが帰ってから一週間経っても、ヒナの研究室に来てはお願いを繰り返していた。
ロッテの名誉のために付け加えておくと、彼女は強大な力を秘めた吸血鬼であり、平行世界にいる「紅い月」と呼ばれる吸血鬼とも互角に渡り合えるとも言われている程である。
ただ、「紅い月」同様呆れるほど子供っぽい一面があるのも事実だったが。
「出来るわ。でも、あれは難し過ぎる。私だって出来ないことはあるの」
「どうも信じられないのよね。いろいろ調べてみたけど、貴方は苦手な魔法は特に無いんじゃなくて?」
「そんなことはないわ。全部周囲の思い込みよ」
「そっか……。やっぱりアリシアちゃんの思い込みなのね」
ぎくっ。
同じ屋根の下で暮らす実の妹の名前が出た瞬間、ヒナは明らかに動揺した。それを見て、ロッテは獲物を見つけた狩人のような笑みを浮かべて続ける。
「アリシアちゃん言ってのよね~。<お姉様に限って苦手な魔法はないわ。あの箱庭だって再現できるわ>って」
「アリシアに……何をしたの?」
「いつもよりお菓子をあげただけよ。アリシアちゃん可愛いじゃない」
「……卑怯者」
「というわけで、<万能の魔女>ヒナ・スノウ様。どうか箱庭を再現して下さい。一生恩に着るから♪」
「貴方って時々思うんだけど……。全然吸血鬼らしくないのよね。初めて会った時なんかこんなに恐ろしい吸血鬼がいるなんて思わなかったのに。すっかり幻滅したわ」
「私だって初めて貴方に会った時はこんなに強い人間がいるなんて思わなかったわ。お互いさまよ」
精一杯の皮肉もロッテには通じず、かくしてヒナは<箱庭>の魔法を生み出すことになったのだった。もちろん、いつも以上に苦労したが、出来ないわけではなかった。
「でも、最初からうまくいくわけないのよね。ま、ここまでくれば成功と言ってもいいけど……私まで中に入ってしまうなんて」
考えている内に腹が立ってきて、ヒナは思わずローファーに包まれた足を振り上げて、足元にあった何かを思い切り蹴飛ばした。
「あっ……」
その直後、思いがけない場面が展開した。巨大化した魔法使いに蹴飛ばされた複数の車が宙に舞い、そのまま道路上に落下したからだった。一部の車は他の車を巻き込んで爆発炎上する。
「やっちゃった……。でも、箱庭の中にいるから全ては幻のようなもの。全然熱くないわね」
そんな事を言いながら、巨大なローファーで炎上する車を踏み潰してしまう。また爆発が発生し、炎が吹き上がったが、ヒナは何も感じなかった。その時には躊躇い一つ見せずに歩き始めたからだった。
足に絡んでくる電線は構わずに断ち切り、電柱はまとめて薙ぎ倒す。立ち塞がる建物は全て足で蹴散らし、小さな住宅は無慈悲に踏み潰して瓦礫に変える。約50倍サイズに巨大化しているので簡単過ぎる程だった。
「あっけないわね……。こんなに大きいんだから無理もないけど」
一通り周囲を破壊し尽くして、ヒナは立ち止まった。足元では瓦礫となったマンションを踏み潰しながら、辺りを見回す。一部は炎上して勝手に破壊活動が進んでいたが、箱庭の中の街は想像していたよりもはるかに大きかった。
とにかく、やるしかないわね。攻撃魔法も使えないんだから。こんな事だったらもっと体を鍛えておけばよかった。
そんな事を考えながらも、巨大化した魔女は無表情のまま本格的に街壊しを始めたのだった。

50倍サイズになっている為か、破壊活動自体は簡単なものだった。住宅が密集する地区は歩いただけで全て壊滅し、自分の腰の上ぐらいまでの高さのマンションも軽く蹴りを入れたりするだけで瓦礫となっていったからである。
「えいっ!」
気合の入った声と共に、ヒナは両手で持ち上げたマンションの残骸を無傷のビルに思い切り叩きつけた。それだけで建物が崩落して大通りに無残な姿を晒すのを見ると、小さく息をつく。
「思ったより時間がかかるわね。私一人じゃ壊しきれないじゃない……。ロッテなら大喜びしそうだけど」
無造作に建物をローファーで踏み潰して止めを刺しながらも、少女魔法使いは<箱庭>のあまりの大きさに内心呆れていた。これでも本気になって暴れたつもりだったが、まだ街の五分の四以上が無傷で残っている始末だった。
でも……。思ってたより楽しいじゃない。こうやって建物とかを壊してしまうのって。ロッテがハマるのも分かるわね。
珍しく、ヒナは口元を緩めて微笑した。最初は嫌々だったが、少しずつ破壊衝動が全身を満たしていくのを感じていた。
今度はこっちね。まったく、大きな建物ばかりで大変じゃない。
次にヒナが目をつけたのは、広大な敷地を誇る工場だった。詳細は分からなかったが、巨大化した少女にしてみれば単なる獲物に過ぎなかった。
まずは正門を破壊しながら足を踏み入れ、手近な建物を片っ端から踏み潰していく。あまりの脆さに呆れるほどだったが、一通り壊すと今度は建設中の建物に据え付けられた工事用の大型クレーンを片手だけで引き抜く。
「これはいい武器になりそう。えいっ……!」
ふわりとマントを翻しながら、クレーンを両手で持って振り下ろす。色々な建造物が破壊される轟音が轟き、埃が舞い上がったが、ヒナは楽しくてたまらなかった。何度もクレーンを叩きつけて周囲の建物をまとめて破壊すると、止めに壊れたクレーンを突き刺してしまったからである。
まだまだ……!
瓦礫を蹴散らして、巨大少女は突き進んだ。今度は敷地の中央にある一段と大きな建物に腕を振り下ろして一撃で半壊させると、スカートにも構わず蹴り上げたからである。思った以上にあっけなく建物は崩壊し、同時に派手な爆発が発生して、ヒナは慌てて両手で顔を庇う。
幻影だから平気なのはいいけど……。びっくりするじゃない。こんなに爆発物だらけでよく暮らせるわね。
まだ見ぬ異境の都市が危険物や爆発物だけられであることに内心呆れながらも、ヒナは冷静に工場を破壊し尽くした。瓦礫の中に立って自分の破壊力を確認すると、さらに無傷の地区へと襲いかかっていく。小さめの工場などが立ち並ぶ地区だったが、スカートから伸びる足によって瓦礫に変えられていき、時々小爆発が起きて盛大に黒煙を吹き上げる。
時間があれば色々調べたいけど……無理ね。元に戻りたいのも山々だし。それに……楽しいし。
加虐的な笑みを浮かべて、ヒナはその場に膝をついた。まだ壊されていなかった建物が壊れていくのが分かったが、そのまま横になって転がってしまった。伸ばした手がさらに建造物を破壊し、その後に転がってきた巨体が止めを刺すかのように押し潰す。立ち塞がったビルもすぐに崩壊して、次々に大通りに倒れる。車がまとめて巻き込まれてスクラップになり、一部が爆発したが、ヒナにはまったく関係なかった。それこそ楽しむかのようにその巨体で全て潰してしまったからだった。
こんな壊し方もあるのね。ロッテはやりそうにないけど、後で教えてあげるのもいいわね。
ビルの瓦礫や車のスクラップが散乱する大通りに座り込んだ状態で、ヒナは体を起こした。もはや破壊衝動は抑えきれなくなっており、全て破壊しないと気が済まない状態になっていた。
「まだまだいくわよ。<箱庭>の魔法がちゃんと機能してるか確かめないと」
もっともらしい事を言いながら、巨大化したヒナは立ち上がった。ワンピースやマントに付着した瓦礫やスクラップを軽く払い落とすと、さらになる破壊劇へと向かっていくのだった。

「お姉様~。どこ~?」
万能の魔女の広大な研究室に、舌足らずで可憐な声が響き渡る。
ヒナ・スノウの妹であり、白塔館の住人の一人でもあるヒナ・アリシアは姉の姿を探し求めていた。
「せっかくお菓子を作ったのにいなくなるなんて~」
「こっちにはいませんね。どこに行かれたのでしょうか?」
音を立てる事なく、イリヤ・ユラが隣に並ぶ。
白塔館の門番であり、剣と魔法を同時に使いこなす魔法剣士であるが、(外見上)最年少のアリシアに付き合わされてばかりだった。
「気配は?」
「感じられません」
「うーん~。お姉様の魔力は感じられるのにどこに行ったのかな……?」
アリシアの丸い瞳が、実験机の中央で止まった。几帳面な姉にしては珍しく、大きく古い箱が置かれたままだった。
「あ、あれから強い魔力を感じる。何かな~?」
「アリシア様、危険です。その箱からヒナ様の強い魔力を感じます。下手に触れると何かが……」
「大丈夫。お姉様が失敗するわけなんか……」
姉を庇う妹の言葉は途中で途切れた。一瞬、全身の皮膚が粟立つ程の魔力を感じて慌てて身構えたユラの目の前で、アリシアはいずこへと消えたからだった。
「アリシア様! ……まさか、この箱の中に? でもそんな危険な物をヒナ様ともあろう御方が放置……」
研究室の主への絶大な信頼が、心の隙となった。不用意に箱に手を伸ばした瞬間、ユラもまた強大な魔力に飲み込まれてその場から姿を消したからだった。
後に残されたのは、古い大きな箱だけだった。

……
というわけで、次回は小さな魔法使い・アリシアと少女魔法剣士・ユラが箱庭世界の内部で怪獣となってしまうお話です。どんな破壊劇が展開するのでしょうねえ~。
ついでに。作中でロッテとヒナは「初めて相手と会った時」のことに触れていますが、どういう出会いだったのか構想はできています。いつか書いてみたいお話の一つです。

次の更新はイラストなので来週の予定です。その後の更新はまた少し間が空くと思いますが、どうかよろしくお願いします。
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コメント

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おとなしい人程・・

おとなしい人程、反動が凄いと言われてますね。

ロッテ[やっぱり流石万能の魔女のヒナね、箱庭の世界を作ってくれたのだから]

リオン[お姉様、ある意味策士ですわ。アリシアにお菓子を増量して味方に[買収]]

ハク[ロッテお嬢様から注文で作った大量のお菓子は、この為に・・アリシア様に喜ばれて良かったですが・・]

ロッテ[アリシアちゃんとユラがどんな破壊を見せてくれるか楽しみよ]

アリシア[神様になれちゃう箱庭世界・・私神様だもんね何しても良いんだよね・・]

ですよね~

>神風様
ロッテは知恵と策でも戦うイメージがあるので、アリシアちゃんを味方につけるのは造作なかったと思います。そんな彼女なのにヒナと話すときは漫才みたいなやりとりになることも……。イメージを壊していないか心配です。
アリシアちゃんは無邪気そうですから、本気になったらとんでもないことになりそうです。その時生真面目なユラがどうするのか、見ものですね~。生真面目な人も反動が凄いですからね。
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Author:小笠原智広
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