無意識の迷宮(2)―古明地さとりの場合―

今回は古明地姉妹巨大化SSの第2話をお送りします。この姉妹はどちらも可愛いですよね~。書いてて楽しいです。やっぱり可愛い女の子が巨大化して大暴れする話は面白いです。

……

今にも壊れそうな勢いで扉が開け放たれた。耳をつんざく程の音だったが、読書に熱中する霖之助は顔を上げたりしない。別に珍しい事でもなかった。
「済みません、ここに妹……こいしは来ませんでしたか!?」
続いて飛んできたのは、焦りに満ちた少女の大声だった。その時になって初めて、霖之助は少しだけ顔を上げて無粋な<客>の正体を確かめる。
地霊殿の主・古明地さとりだった。
たまに来店するので顔は知っていたが、あまり気持ちのいい相手ではなかった。
「……来たのですね。え? その箱の中に消えた? どうして止めなかったのです!?」
「勝手に人の心の中を読むのは止めてくれないかな」
わずかに眉をひそめ、霖之助はやんわりと注意した。
人は誰でも、隠しておきたいことがある。それを全て暴き出す少女の相手は霖之助といえど遠慮願いたかった。
「済みません。それより、こいしはその箱の中ですか?」
「そうだ。気がついたら入っていった。それ以上の事は知らない」
「……そのようですね。久しぶりに姿を見たって妖精から聞いて探してたのに箱の中なんて……。その箱、どうやって使うのかは……分からないんですね」
「力になってあげたいのは山々だが、知ってる事は僕の心の中にある通りだ」
「名前と用途しか分からないのですね……。ならばその箱は私が預かります。いいですね?」
「こいし君は僕に売る気は無かったからいいよ。でもそんなもの持って行って……」
<どうするつもりだ?>
霖之助の疑問は途中で消えた。
いつの間にかさとりの姿は消えており、薔薇の花びらだけが残されていた。
「……。姉妹揃って箱庭の中とはご苦労なことだな」
それでも。
霖之助は慌てたりしなかった。
軽く眼鏡を上げると、何もなかったように読書を再開したからだった。

頬を軽く撫でる風に、さとりは目を開けた。
「え? ……ここは?」
周囲に広がっているのは、奇妙な光景だった。直線的で無機質な小さな建物、大地を覆い尽くす道路と車。かつて読んだ、外の世界から流れ着いた本に載っていた<都市>に似ているように思えたが、大きさはまったく違った。
「まさか、私が巨大化してる? いったいどうして……」
慌てて足元を見ると、外出用のローファーは道路にあった車を全て踏み潰しており、アスファルトもまた陥没していた。
「あっ……。そんな……壊すつもりなんか、なかったのに」
呆然として、意識しない内にその場に膝をつく。力は込めていなかったが、巨大化した少女の体重を受け止めて、道路は更に陥没し、周囲の建物のガラスが砕けて破片を撒き散らす。
駄目、そんな……。壊したくなんかないのに勝手に……。
ちょっと動いただけで都市に損害が及びつつあることに、さとりは底知れない罪悪感をおぼえていた。まるで、他人の心の内容を全て打ち明けた時のような居心地の悪さが、心を支配していた。
……まさかと思うけど、ここは箱庭の中なのかしら? だとしたらこの<世界>は作り物だけど、確信はないわね。こいしもいないし。
長い長い後悔の末に。
ふとある事を思いついてさとりは顔を上げた。
とにかく、こいしを探さないと。もし箱庭の中ならばきっといるはずだから。
そう思うのと同時に、心を読む少女は立ち上がった。巨大化した状態の視野で辺りを見回してみたが、妹の姿はどこにも見えなかった。
ここにいても仕方ないわ。とにかく探さないと。でも……。
問題は歩く場所だった。道路上には車が渋滞しており、足を置く余裕はまったく無かった。既に数台を壊してしまったとはいえ、それ以上の破壊は躊躇われた。
でも仕方ないじゃない。歩かないと何もできないんだから。建物さえ壊さないようにすれば被害だって大したことがないはず……。
無理やり自分を納得させて、巨大化した少女はついに歩き始めた。30倍サイズになったローファーで道路の上の車を片っ端から踏み潰し始めたからである。紙の模型を潰すような感覚に、さとりは不思議な気分になる。
幾らでも壊せそう……。でも、仕方ないわ。これしか方法はないんだから。
しかし、幻想郷の少女・さとりが気づいていなかったことが一つだけあった。車は可燃物の塊であり、下手に壊すと大爆発することがあることに……。
突然、後方からの爆発音が耳を貫いてさとりは再びその場に膝をついてしまった。そこにあった車を足で潰した状態で背後を見る。自分が壊した車の一部が黒煙を吹き上げて炎上しており、炎は周囲に広がりつつあった。
「そんな……! このままだと大変なことに……!」
何も考えずに立ち上がろうとしたのが余計に被害を拡大した。今度は足元に張られた電線を引っ掛けてしまい、そのまま両手を前にして大通りに転んでしまったからである。小さく膨らんだ胸が車をまとめて押し潰し、両手は周囲のビルなどの正面をえぐり取る。短めのスカートがふわりと翻り、白いものがちらりと見えたが、そこから伸びる足も容赦なく大通りや建物を破壊する。
「えっと、どうしたら……いいの?」
両手をついて体を起こし、さとりは間抜けなつぶやきを漏らす。自爆ヘッドスライディングによって破壊された車がさらに爆発し、さっきの爆発の炎と合わさりつつあったが、なぜかさとり自身は熱さを感じなかった。
「もう……取り返しがつかないじゃない。火を消したいけど水も無いし。どうしたら、いいの?」
<簡単じゃない。開き直ればいいの>
不意に、他人から読まれることのない心の中で何かが囁いた。甘美な毒が含まれたその言葉は、目の前の惨事を正当化する理由を求めていた少女を急速に籠絡していく。
<どうせここは箱庭の中なんだから。現実だったらとっくに大騒ぎになってるのに何も起こらないのがその証拠。被害なんか気にすることなんかないのよ>
「……そういうものなの? だったら、好きにしてもいい?」
<当然じゃない。貴方はこいしを探さないといけないんでしょう? この世界のどこかにいるかもしれないじゃない>
「それもそうね。私にはやる事があるんだから。好きにしてもいいわね。たとえば……邪魔な建物を全部壊してしまうとか」
心を読む少女・さとりの口元に笑みが浮かんだ。躊躇わなくてもいいならば、後は行動あるのみだった。

30倍サイズに巨大化したさとりが悠然と立ち上がったのは、それからすぐのことだった。改めて周囲を見回したが、妹の姿は見えなかった。
「こいしはいないわね……。私と同じ状態になったら躊躇わずに大暴れしそうなのに。とにかく、探さないと」
スカートなどについた瓦礫を落として、さとりは決意を固めた。
何が何でもこいしを探さなくてはならなかった。
たった一人の妹、心を読むことを止めて彷徨い続ける妹、そして命に代えても守りたい存在……。
何も言わずに、さとりはスカートを翻し大通りに面したビルにローキックをお見舞いした。一撃で崩壊したのを見ると、その瓦礫を踏み潰しながら周囲の建物を手や足で次々に破壊していく。
「こいし、どこにいるの? こいし!」
破壊への躊躇いが消えた途端、さとりは一段とこいしに会いたくなった。思えば、ここ数ヶ月姿すら見ていなかった。地底にある屋敷……地霊殿にも戻ってこなかったし、たまに地上に出ても不確かな噂話を聞くだけだった。
周囲の建物を壊し尽くして、さとりは別の大通りに出た。目の前に電車の高架線があるのを見つけると、一段と衝動を刺激されて新たな破壊活動を開始する。
いきなり、赤いローファーに包まれた足で高架線をまとめて踏み潰す。架線が垂れ下がって火花を散らしたが、さとりは笑いながら高架線上の電車を鷲掴みにする。二両目までが持ち上がってしまったが、そのまま高架線に力任せに叩きつける。その一撃だけで電車の半分は原形を失い、高架線は一段と破壊されたが、巨大化した少女は今度は壊したばかりの高架線を無理やり引きちぎり、頭の上まで持ち上げる。
「邪魔ね! えいっ!」
無意識の内に声を漏らしながら、高架線を目についた背の高いビルに叩きつける。それだけで、ビルは上半分が吹き飛んで無くなり、瓦礫が周囲の建物をまとめて巻き込んで、新たな惨事を引き起こす。それを見たさとりは、瓦礫を蹴散らしながらダッシュすると、地面を蹴って飛んだ。スカートのフリルが大きく翻り、純白の下着がほぼ丸見えになったが、構わずに上半分を失ったビルの上に着地する。その瞬間の衝撃と破壊を、さとりは心の底から楽しんだ。ローファーはビルを破壊しただけで済まずその地下構造すら貫き、桃色のスカートは広がったまま周囲のビルにかかる。そして少女が巻き起こした地震は、辺りを完全に壊滅させた。
「めちゃめちゃにしちゃった……。でも、なんでこんなに気持ちいいのかしら?」
瓦礫の上にちょこんと座り込んで、さとりはつぶやいた。
普通ならば決してやってはいけない大破壊を躊躇わずにやってしまったからだろうか?
少女の心はいつになく高揚し、未成熟な下半身も熱くて仕方なかった。
「こいしはここにいるわね。あの子なら私と同じことをするはず。無意識の内に行動して……無意識?」
次の瞬間。
さとりの心が一瞬の内に冷えきった。もしかすると、自分は無意識の内に破壊衝動を爆発させていたのではないかという気がしてきたからだった。
それじゃこいしと同じじゃない。私は他人の心が読めるのにあの子と同じだなんて。まさか、この箱庭の中は無意識の迷宮……。
「あ、お姉ちゃん見っけ」
ある可能性に思い至るのと同時に。
背後から聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた。

……
今回はここまで。この続きはまた次回をお楽しみに。

今のうちに触れておきますと、古明地姉妹の後はジョン様のリクエストに応えて河城にとりのお話をやってみたいと思っています。その後には久々に私自身のわがまま……じゃなくてリクエストでオリジナルの巨大娘物(おそらく、巨大化だけしか能が無いのに怪獣と戦わされるヒロインのお話)を書いてみたいと思います。その後はお待たせしますが、神風様のリクエストに応えたいと思います。

リンクにふずき様の運営するブログ「巨大な女の子が好き」を追加しました。私と同じようにOMC経由で依頼したイラストを掲載されています。実に見事な破壊が繰り広げられていますので是非ご覧になってみてください!

また、このブログとは無関係ですが、鉄道&鉄道模型中心のブログ「上杉蒼太の鉄道&天体観測日記」も同時に追加しました。特に鉄道や鉄道模型(Nゲージ)に興味のある方はご覧になってみてください。

次回の更新は来週の予定です。イラストをアップしますのでお楽しみに!
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コメント

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待っていましたさとり編。ノリノリで暴れ回るこいしちゃんと対照に意図しない破壊もいいものですね。さとりの下半身が熱くなるのは次回の伏線と勝手に信じてます、巨大姉妹はいいものだ

ある意味一種の毒ね。

囁きかけてきた声は、もう一人の自分・・かしら。

*メールにてリクしてみましたが良かったでしょうか?

コメ返し遅れてすみません

>ガリクソン様
今回は意図しない破壊をテーマにして書いてみました。さとりの下半身の件ですが、今後どうなるのでしょうねえ。まあ、背徳感が高い程テンションが高くなるのはよくある話しですからね~。

>神風様
囁きかけてきた声についての解釈についてはお任せします。でも、正当な理由は欲しいですよね~。あんな情況では。リクエストはたしかに承りましたのでご安心ください。「箱庭世界」の方は来週更新分からいよいよ異世界の吸血鬼姉妹やその友人の魔法使いも登場します。
ロッテ「やっと私たちの出番ね。黒羽の新しい従者に会うのも楽しみね」
リオン「黒羽のおみやげ何かな~。美味しいお菓子だといいな♪」
ヒナ「少しばかり研究が滞りそうね(向こうの世界の「科学」という魔法が気になるわね。今回は何の本を持ってくるのかしら?)」
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