反逆の従者-箱庭世界の巨大剣闘士-(1)

今回はリクエスト編です。
神風様から「吸血鬼ハンター」の物語を書いて欲しいというリクエストがありましたので、書いて(描いて)みました。が……。ある意味嬉しい誤算だったのですが、かなーり長い話になりました。詳細はこの下に書きますが、「箱庭世界の巨大剣闘士」はこれだけでは終わりません。今回は導入編のようなものです。よって、今回のパートの前半はこの物語の背景説明が中心になっています。さらに、再びキャラデザまでしてしまいました。途中に入っているイラストは私が描いたものです。つたない出来ではありますが、ご容赦下さい。
では、吸血鬼ハンターと吸血鬼の物語をお楽しみ下さい!


……

ゆっくりと降下するエレベーターに乗っているかのような浮遊感が消えた。
同時に黒茶色のブーツに包まれた足が道路やその周囲にあった小さな建物を踏み潰し、砂塵を巻き上げる。それでも、藤間薫(ふじま・かおる)は眉一つ動かさずにミニスカートから伸びる足を広げ、さらに周囲の建物を破壊する。
「ここが今日の舞台なのね。相変わらず、悪趣味なまでに立派ね」
右手に持った黒鞘の刀を握り直して、薫はつぶやいた。
身長47.1メートルにまで巨大化した少女の目の前に広がっているのは、南関東地方のとある都市だった。ビルの立ち並ぶ駅前や中心街、そして小さな路地一つに至るまで正確に再現されていたが、人影はまったく見えない。
怪獣のように巨大化した少女に恐れをなして逃げたわけではなかった。この都市は、<箱庭>世界上に再現された架空の町並みだったからだった。
<それでも褒めてるつもり? 皮肉にしか聞こえないわね>
綺麗なソプラノで文句を奏でたのは、薫の<主人(マスター)>であり<箱庭>使いでもある烏丸黒羽(からすま・くろは)だった。例によってテーブルの上に箱庭を置いて様子を見ているのだろうか。薫が思ったよりも反応は早かった。
「今のが皮肉に聞こえるならば手遅れにならない内に耳鼻科の受診をお勧めします、黒羽様」
<口だけは一人前なのね。今のあんたは私の従者。元吸血鬼ハンターなのに吸血鬼の奴隷になった哀れな存在じゃない>
……まだ決まったわけじゃない。
血が滲みそうになる程強く唇を噛み締めて、巨大化した薫は言葉の暴力に耐えた。リボンで隠したうなじに左手をやりかけて、すぐに止める。
黒羽に敗れて吸血鬼の従者にされた時、そこに彫られた護符が力を発揮して、完全に闇の眷属となるのを阻止してくれた。もし無かったら、今頃文字通り奴隷となっていたことだろう。
<でも、奴隷としては上等な部類ね。メイドとしてよく働くし、なにより私専属の剣闘士(グラディアトル)として戦ってくれるんだから。今日も楽しませてほしいわね>
「お任せ下さい、ご主人様(マスター)」
空いている左手を小ぶりな胸に添えて、薫は心の底から言い切った。
今の自分は元吸血鬼ハンターのメイドではなく、箱庭世界で戦う巨大剣闘士。
そう思うだけで、心が熱くなる。
今日も勝ってみせる。勝てば勝つほど、黒羽様はわたしを手放せなくなる。そして、距離を詰めきった時再び……。
<その姿で巨大化して街の中に立っていると思い出すわね。初めてあんたを箱庭世界に招待した時のことを。楽しかったわね、滅茶苦茶慌てるんだから>
「初めてですから当然です。こんなに巨大化して、しかも怪獣みたいに盛大に町を破壊しながら戦うなんて、想像つきませんでした」
<それが今では立派な巨大剣闘士(グラディアトル)なんだから、面白いわね。とにかく、今日も勝ちなさい。しかも、美しく完全にその街を破壊すること>
「了解しています」
この命令を受け入れるのは簡単なことだった。いつも通りにやればいいだけなのだ。目の前の街を破壊するのに理屈も、躊躇いも必要ない。
でも、わたしには本当の目的がある。それを忘れないようにしないと……。
刀を持った右手を上げて、準備完了という合図を黒羽に送る。
あと数分もすれば目の前に広がる大都市は壮絶な戦場と化し、1時間後にはただの瓦礫の山になっているだろう。
それでも、薫の心は高揚していくばかりだった……。

街破壊巨大少女幻想54

薫は代々吸血鬼を狩ってきた一族の血を引いて生まれた。
もちろん、その存在は世の中からは隠されているため、表向きはごく普通の少女として学校にも通い続けていた。吸血鬼を狩る能力は狩る相手を目の前にしないと役に立たない事もあって、<正体>を隠すことは難しくなかった。
しかし、いくら血脈といえど向き不向きはあった。
薫はあまり優秀なハンターではなかった。小物相手ならばとにかく、大物を狩るとなると、名ばかりの後方支援担当に回されてばかりだった。
それでも問題が無かったのは、薫がそもそも吸血鬼狩りに消極的だったことと、実の妹である響(ひびき)の存在があったからだった。
<薫お姉ちゃんは自分でしたいことをすればいいんだよ。響は吸血鬼ハンターが一番合ってるからしてるだけ>
姉の負い目に気づくと、響はそう言って励ましてくれたものだった。そんな妹に薫は甘えていたのだが……。
今、響は死に限りなく近い深い眠りについたままだった。黒羽と戦って敗れた際に、呪いをかけられたからだった。
解除する方法は二つ。黒羽自身が解除するか、黒羽を殺すか。
前者は常識的に考えられない以上、響の眠りを覚ますには、後者しか方法が無かった。
だからわたしは必死になって腕を磨き、そしてついに黒羽様の屋敷にメイドとして潜り込むことに成功した。でも、案の定黒羽様に隙は無かった。
黒羽は日本土着の吸血鬼の名門・烏丸家の直系であり、実力はかなりのものだったが、それだけではなかった。彼女には特別な能力があった。
<箱庭>を使いこなす能力。これが一番恐ろしい……。相手を<箱庭>に放り込み、自分に最適な舞台を作り上げた上で敗北に追い込む。響でも勝てるわけがない……。
薫が黒羽に負けたのも、<箱庭>内部でのことだった。ついに仇の隙を見つけたと思った薫は深夜、吸血鬼ハンターとしての衣装に身を包み、黒羽を強襲した。しかし、それ自体が罠だった。
……。やっぱり勝てるわけがないわね。<箱庭>のことを理解した今でも自信なんてないのに、あの時ときたら……。
今日の対戦相手はまだ現れなかった。準備に時間がかかっているのだろうか。
その苛立ちを抑えるため、そして気持ちを高めるために、あえて薫は自分が敗北した日のことを思い返していた。

気がついた時には、薫は黒羽の手によって<箱庭>の内部に取り込まれていた。背後からの不意打ちによって、一撃で葬り去るばずだったが、完全に読まれていたのだった。
しかも……。
「ここは? どうなってるの……」
妹の響が作ってくれた吸血鬼ハンター用の衣装に身を包んだ薫は、呆然として辺りを見回した。どういう理屈なのか見事に巨大化しており、ブーツは大通りを踏みつけてその場を陥没させていた。
この街は……わたしの住んでる街じゃない。まさか、駅前付近?
見覚えのある建物や道を見下ろして、薫はすぐに確信した。自分が黒羽の罠にかかったのは理解できたが、どうすればいいのかまったく分からない。
歩けそうにもない……。通りに車があるし、建物も邪魔だし。それ以前にここは本当にわたしの街なの?
落ち着こうとしても、心は空回りするばかりだった。現実を受け入れることができず、ただひたすら戸惑ってばかりだった。
それより、黒羽はどこ? もしこれが罠ならきっと仕掛けてくるはず……。
「無様な姿ね、吸血鬼ハンター藤間薫」
一片の熱も含まない声が耳を打って、薫は弾かれたようにその方向を見た。そこにいたのは、屋敷の主人であり吸血鬼でもある烏丸黒羽その人だった。
フリルなどで飾ったブラウスに、チェックのスカートと一体になった漆黒のジャンスカ、胸元には赤いリボン、そして紺のハイソックスに黒のブーツという、お嬢様にしては質素ないつもの普段着姿で腕を組んでいた。
薫と同じように身長50メートル近くまで巨大化し、腰まで届く長い黒髪を上空の風になびかせていたが、その瞳には強い殺意が宿っていた。
「あんたが藤間響の姉だってことは最初から気づいたわ。だからメイドとして採用してやったのにこのざまなんて、姉妹揃って本当におめでたいわね」
「黒羽……!」
「黒羽様よ。ちゃんと様をつけなさい。私は名門・烏丸家の娘なんだから」
「くっ……。わたしをどうするつもり!?」
黒羽の口元が緩んだ。極上の獲物を手に入れた猛獣を思わせる、愉悦に満ちた笑みに薫の心は凍りつく。
「どうするつもりかって? 決まってるじゃない。ここを舞台に遊ぶのよ。ここは私が用意した特製の舞台。思い切り楽しんで欲しいわね」
「どういう意味……?」
「私が一番好きな遊びはまだ教えてなかったわね。この箱庭世界で巨大化して、街を壊し尽くすこと。そして……同時に無抵抗な相手を嬲り尽くすこと!」
その言葉が合図だった。長い髪をなびかせた黒羽は一気に薫との間合いを詰めてきた。ブーツに包まれた足が大通りの車や設備を全て蹴散らし、アスファルトに足跡を残したのを見て、巨大化した吸血鬼ハンターはあっとなったが、それが隙となった。
「隙だらけじゃない。そんな事では勝てないわ!」
息が触れるほどの距離まで黒羽に迫られた時には遅かった。両肩を掴まれるとそのまま力任せに倒されたからだった。赤いスカートに包まれたヒップが通りに面したビルを直撃し、ガラスを粉々に砕く。慌てて伸ばした腕は周囲の建物をまとめて巻き込み、薫の心に恐怖と罪悪感の二重奏を奏でさせる。
派手に舞い上がった埃が消えた時には、身長47.1メートルに巨大化した薫は背中や腕で複数のビルを破壊して大通りに転ばされていた。
「えっ……。まさかわたし……壊してしまったの?」
「それだけ巨大化してるんだから当たり前!」
仕掛けた黒羽は笑みさえ浮かべていた。それどころか、スカートを豪快に翻しながら薫にキックを浴びせかける。黒いブーツの先が凶器となって、地面に倒れ込んだ少女の巨体を転がす。あまりの痛みに一瞬呼吸が止まったが、今度は背中で大通りの車をめちゃめちゃにしてしまう。それどころか、一部の車は黒煙を吹き上げたかと思うと、盛大に爆発する。
「一つ言っておくけど、ここは箱庭の世界だから炎はまったく平気よ。私も、あんたもね。火事を起こして足止めしようなんて考えないことね」
「誰が……そんなことを……」
「吸血鬼ハンターといっても追い込まれると何をするか分からないから忠告したまでよ。人間なんて所詮、餌でしかない下衆な生き物なんだから!」
妹手製のコスチュームから、ぼろぼろと瓦礫やスクラップになった車、アスファルトの破片を落としながら薫は体を起こした。刀を手に持ったままなのを確かめると、決然として睨み返す。
人間を侮辱する言葉は、絶対に許すわけにはいかなかった。
「いい目をしてるわね。でも、この街を舞台に戦えるかしら? この架空の街が本物の街とリンクしてる可能性には思い当たらないのかしら?」
「ま、まさか……!」
そんなはずはない、と薫の心は否定していた。しかし、証拠はまったく無かった。いつもはとにかく、今回に限ってリンクさせている可能性がある以上、完全否定は難しかった。
「さあ、どうするのかしら? 戦うなら幾らでも相手してあげるから。この街がどうなってもいいんだったらね。ちなみに私を倒さないとここから出ることは出来ないわ」
最悪の二者択一だった。
今、巨大化した薫がいるのは生まれ育った街。一部を壊してしまったのは何度も妹と共に歩いたことがある場所だった。そんな場所を舞台に戦うしかないのか……?
でも、このままでは何もできない。何とか最小限に被害を食い止めながら戦えれば……。
短くとも深刻な迷いの末に、薫は一番都合のいい結論を出した。要はこれ以上壊さないように戦えばいいのだ。
私には吸血鬼を一撃で討ち取る武器もある。隙さえ突ければ……。
ゆっくりと薫は立ち上がった。瓦礫を巨大なブーツで踏みしめながら、正面に立つ少女吸血鬼を見据える。
ここからが、戦いの本番だった。

……
今回の話は、イラストを描く合間に書きました。勢いがついてしまったのはそのせいもあるかもしれません?

この物語の今後の展開ですが、実は夏コミでさらに物語を追加して、オリジナル巨大娘小説本として出したいと考えています。今回設定を考えていたら、薫と黒羽の物語をもっと書きたくなったからです。巨大娘関連作品の新作を期待されている方もいますので、頑張ってみたいと思います(といっても今回はコピー本ですが)。

次回は来週、イラストをアップしたいと思います。期待していてください。
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コメント

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2名の元ハンター・・

片方は、某お嬢様の従順なメイド長に・・・

残り片方は反逆のメイド・・

しかも、一種の人質を取られての反逆。

さぁ、藤間薫はどうするのかしらね・・

☆この物語のifが夏に本として誕生するのね・・
これは楽しみ・・み~

No title

ナクシと言います。
自分も巨大娘が好きで、たま~に小説書いたりしてます。
読ませていただきましたが、面白いですね~次回が楽しみですw
ところで、題材等のリクエストとか受け付けてるんですか?

コメントありがとうございます~

>神風様
薫の反逆はまだ始まったばかりです。夏コミに出す本ではそのあたりをもっと掘り下げつつ、巨大娘物としても楽しめるる作品にしたいと思っています。予定では、今回の「反逆の従者」編のリメイク版(同人誌版ではよりボリュームが増しそうですが)と書下ろしの話を入れたいと思っています。楽しみにしていてください(書く方も楽しみ!)

>ナクシ様
コメントありがとうございます。リクエストですが、破壊系の巨大娘の物語ならばOKです(但し、18禁は苦手意識があるので不可能です)。オリジナルか、版権物は「東方」なら大丈夫です。また、時間もかかると思いますが、どうかよろしくお願いします。

サー再開!?

夏コミに向けたヒントとなれて嬉しいです。

サー活動再開で良いのですね?

はい、再開です

>神風様
実は今年の3月より少しずつ活動を再開しています。サークル参加の回数は減りましたが、オリジナルや東方で新作を出し続けつもりです。とりあえず5/5のコミティア、5/26の博麗神社例大祭にサークル参加します。サークル名は「木蘭優駿(もくらんゆうしゅん)」です。今後共、よろしくお願いします!
プロフィール

Author:小笠原智広
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